大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成9年(ワ)750号 判決 1998年9月29日

原告

バーリーサービス株式会社

右代表者代表取締役

池實

右訴訟代理人弁護士

本田俊雄

西尾孝幸

松田英一郎

宮﨑敦彦

真貝暁

隈元慶幸

谷原誠

山枡幸文

岩島秀樹

右訴訟復代理人弁護士

田中宏明

桐生貴央

被告

ユニバーサル販売株式会社訴訟承継人

アルゼ株式会社

右代表者代表取締役

岡田和生

被告

株式会社瑞穂製作所

右代表者代表取締役

三上貞夫

被告

株式会社メーシー販売

右代表者代表取締役

別所直鋼

右三名訴訟代理人弁護士

松本司

岩坪哲

畑敬

植松勉

野口耕治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  被告株式会社瑞穂製作所(以下「被告瑞穂製作所」という。)は、原告に対し、金一億円及びこれに対する平成四年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社メーシー販売(以下「被告メーシー販売」という。)は、原告に対し、金一億円及びこれに対する平成四年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告アルゼ株式会社(以下「被告アルゼ」という。)は、原告に対し、金三億円及びこれに対する平成六年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告らそれぞれに対し、被告らのパチスロと呼ばれる回胴式遊戯機(以下「パチスロ機」という。)の販売が原告の商標権の侵害行為に該当するとして、損害賠償の一部の支払(それぞれ不法行為の後の日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を含む。)を求めている事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、ゲーム娯楽機器の製造及び販売並びにリース業、パチンコ店の経営等を目的とする株式会社である。被告瑞穂製作所は、各種遊戯機製造販売等を、被告メーシー販売は、パチンコ、回胴式遊戯機の開発、製造、販売、賃貸及びサービス業等をそれぞれ目的とする株式会社である。被告アルゼ(旧商号「ユニバーサルテクノス株式会社」)は、平成一〇年四月一日、遊戯機器の試験研究、企画、開発、製造・販売及び輸出入等を目的としていたユニバーサル販売株式会社(以下「ユニバーサル販売」という。)を吸収合併した(同日登記)。(弁論の全趣旨によって認められる。一部の事実は争いがない。)

2  原告は、左記の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。(争いがない。)

登録番号 第一九〇三七三六号の一

登録年月日 昭和六一年一〇月二八日

更新登録年月日 平成八年八月二九日

指定商品 商標法施行令(平成三年政令第二九九号による改正前のもの。以下「旧政令」という。)別表の商品区分第九類(以下、旧政令別表による商品区分を「旧第九類」のように表示する。)

産業機械器具、その他本類に属する商品(ただし、動力機械器具、事務用機械器具、蒸気暖房装置、温水暖房装置、温気暖房装置、放熱器、温気炉、窓掛け式空気調和装置、中央式空気調和装置、単位誘引式空気調和装置、路面暖房装置、機械要素を除く)、但し、土木機械器具、荷役機械器具、印刷または製本機械器具、消火器、消火せん、消防用ホース(其他のホースを含む)、工業用水そう、液体貯蔵そう、ガス貯蔵そう、液化ガス貯蔵そうを除く

登録商標    別紙原告商標目録記載のとおり

3 被告瑞穂製作所は、「Conti-nental」という標章を付したパチスロ機(以下「被告商品(1)」という。)を、被告メーシー販売は、「Continental Ⅱ」という標章を付したパチスロ機(以下「被告商品(2)」という。)を、ユニバーサル販売は、「Continental Ⅲ」という標章を付したパチスロ機(以下「被告商品(3)」という。なお、被告商品(1)、被告商品(2)及び被告商品(3)を「被告商品」と総称する。)をそれぞれ販売した。(争いがない。)

二  争点

1  被告商品が本件商標の指定商品と同一又は類似であるか否か。

(原告の主張)

スロットマシンないしパチスロ機は、旧第九類に属する商品であって、旧第二四類に属するものではない。また、原告は、昭和四三年ころから現在まで、「コンチネンタル」という名称のスロットマシンを製造販売しており、昭和五〇年代にはこれが爆発的な人気を呼ぶに至ったものであって、パチスロ機の需要者たる遊戯者との関係で、出所の誤認混同のおそれが高い。したがって、被告商品は、本件商標の指定商品と同一又は類似である。

被告は、商標登録出願の経緯から出願人の主観的意図を推測して、被告商品と本件商標の指定商品との類否を判断しようとするが、何が指定商品であるかはその表示から客観的に判断すべきものであり、主観的要素を考慮して被告商品と本件商標の指定商品との類否を判断することは許されない。

(被告らの主張)

スロットマシンないしパチスロ機は、旧第二四類に属する商品であって、旧第九類に属するものではない。また、本件商標の商標登録出願の経緯からすれば、原告は本件商標の指定商品にスロットマシンないしパチスロ機を含まないことを認めて本件商標権を取得したものであるから、本件商標の指定商品にスロットマシンないしパチスロ機が含まれるという主張をすることは禁反言の法理に照らし許されない。パチスロ機の需要者はパチンコホール経営者というべきであり、仮にパチスロ機の需要者がその遊戯者であるとしても、被告商品が遊戯者の間で周知著名な機種であったことなどからすれば、出所の誤認混同のおそれはない。したがって、被告商品は、本件商標の指定商品と同一又は類似ではない。

2  被告商品に付された各標章が本件商標と同一又は類似であるか否か。

(原告の主張)

被告商品に付された各標章は、本件商標と同一又は類似である。

(被告らの主張)

パチスロ機の取引の実情等からすれば、出所の誤認混同のおそれがなく、被告商品に付された各標章は、本件商標と同一又は類似ではない。

3  原告の損害額

(原告の主張)

平成三年ころから同年末までの間に、被告瑞穂製作所は被告商品(1)を合計五万五〇〇〇台、被告メーシー販売は被告商品(2)を合計六万台、それぞれ販売し、また、ユニバーサル販売は、平成四年半ば以来、被告商品(3)を合計五万七〇〇〇台販売した。

本件商標について通常使用権を許諾した場合の使用料相当額は、商品の売買価格の三パーセントである。被告商品の価格はいずれも一台三八万円であるから、被告らは、原告に対し、それぞれ次のとおりの使用料相当額の損害を賠償する義務がある。

(一) 被告瑞穂製作所 六億二七〇〇万円(380,000×55,000×0.03)

(二) 被告メーシー販売 六億八四〇〇万円(380,000×60,000×0.03)

(三) 被告アルゼ(ただし、ユニバーサル販売の義務を承継した分)六億四九八〇万円(380,000×57,000×0.03)

(被告らの主張)

原告主張の損害額は、争う。

4  消滅時効の成否

(被告らの主張)

仮に被告らが原告に対して損害賠償義務を負うとしても、原告は被告らに対し、平成八年九月四日到達の内容証明郵便によって初めて本件商標権侵害を理由とする請求をしたものであるから、その債務のうち平成五年九月四日以前に生じたものについては、三年の消滅時効期間が経過している。被告らは、いずれも右消滅時効を援用する。

(原告の主張)

原告が本件商標権の侵害による損害を知ったのは平成八年五月一三日であるから、原告の被告らに対する損害賠償請求権については、消滅時効期間が未だ経過していない。

第三  当裁判所の判断

一1  本件商標の指定商品は、前記(第二、一2)のとおりであるところ、本件商標の指定商品区分である旧第九類には、「産業機械器具、動力機械器具(電動機を除く。)、水風力機械器具、事務用機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く。)、その他の機械器具で他の類に属しないもの、これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く。)、機械要素」が区分されており、旧政令別表において、他の類がそこに属する商品の具体的品目を掲げているのと異なり、他のどの類にも属しない機械器具が包括的に属するものとされている。

2  商標権者は、指定商品について登録商標の使用をする権利を専有し(商標法二五条)、指定商品又はこれに類似する商品について登録商標又はこれに類似する商標を使用する者に対して、商標権を侵害する行為として右使用の差止め及び損害賠償を求めることができる(同法三六条、三七条一号参照)。商標法が商標権者の業務上の信用の保護とともに商品の取引秩序の維持を通じての需要者の利益保護を目的とするものであること(同法一条参照)に照らせば、商標権者の利益と市場における取引活動の自由とを調整する上で、指定商品は、商標権者が商標権の禁止的効力を行使することのできる範囲を事前に公示するものとして、重要な意味を有するものである。商標法が、指定商品を商標公報に掲載しなければならないものと規定しているのも、このような趣旨に出たものである。右のような商標法の趣旨に照らせば、指定商品は、その内容及び範囲が明確に理解できるように表示されていることが要請されるものというべきである。

3  商標実務においては、従前、商標登録出願に当たり指定商品として、例えば「清酒、その他本類に属する商品」というような包括的な記載をすることが許容されていた。このように、指定商品として、具体的な品目に続けて「その他本類に属する商品」と記載されている場合であっても、商標法施行令(以下「政令」という。)別表上、当該区分として具体的な品目が列挙されているときには、第三者は、指定商品の範囲として、右に列挙された具体的品目を知ることができる。旧第九類のように、区分された品目のなかに「他の類に属しないもの」という控除形式で包括的に記載されたものが含まれているときには、第三者は、政令別表からは指定商品の範囲を明確に知ることができないが、商標法施行規則(以下「省令」という。)別表に商品の区分の細目が掲げられ、これに属するものとして個々の具体的な商品が列挙されているので、右の区分細目及び列挙された商品が指定商品の範囲に属することを知ることができる。

そこで検討するに、商標登録出願に当たり指定商品として「○○その他本類に属する商品」という包括的な記載がされている場合においては、政令別表において当該区分に具体的な品目が列挙されているときには、列挙された品目を基準として指定商品の範囲を判断することができるが、政令別表において当該区分に「他の類に属しないもの」という控除形式で包括的に記載されたものについては、省令別表に記載された区分細目及びそこに列挙された個々の商品を基準として指定商品の範囲を判断するほかはない。すなわち、後者において、第三者が商標を使用する商品が登録商標の指定商品と同一又は類似の商品に該当するかどうかを判断するに当たっては、(1) 第三者の商品が他の区分に属する商品であることが積極的に認定されない限り「他の類に属しないもの」に該当するものとして指定商品と同一の区分に属するという見解を採ることはできず、(2) 第三者の商品が省令別表に掲げられた区分細目及びそこに列挙された商品と同一又は類似であると認められる場合に限り、指定商品と同一又は類似の商品として商標権者の商標権の禁止的効力が及ぶものと解するのが相当である。

4  本件商標の指定商品については、前記のとおり、除外すべきものとして動力機械器具等が列挙されているものの、基本的には「旧第九類」「産業用機械器具、その他本類に属する商品」と定められているだけで、「その他の機械器具で他の類に属しないもの」については、列挙された前記の除外商品を除いて、そのすべてを包含する体裁となっている。しかしながら、たとえ指定商品から除外される商品の品目が具体的に掲げられているとしても、指定商品に属する商品の品目が具体的に明示されていない以上、本件商標の指定商品は、旧第九類に掲げられている産業用機械器具及び水風力機械器具以外は、その具体的品目が確定されているとはいえない。そこで、本件においては、被告商品が本件商標の指定商品と同一又はこれに類似するものであるかどうかは、被告商品が産業用機械器具及び水風力機械器具に属するものかどうか、そして、商標法施行規則(平成三年通商産業省令第七〇号による改正前のもの。以下「旧省令」という。)において掲げられた旧第九類の細目及びこれに属するものとして列挙された個々の商品と同一又は類似するものかどうかにより判断すべきものである。

二1(一) 旧第九類の「産業用機械器具」とは、事業場で生産加工及びその管理に使用される機械器具をいい、金属加工機械器具、鉱山機械器具、土木機械器具、荷役機械器具、農業用機械器具、漁業用機械器具、化学機械器具、繊維機械器具、食料又は飲料加工機械器具、製材、木工又は合板加工機械器具、パルプ、製紙又は紙工機械器具、印刷又は製本機械器具、工業用炉などがこれに属する。また、旧第九類の「風水力機械器具」とは、液体又は気体を噴出させたり、高所へ押し上げたり、高圧のタンクへ押し込んだりするために、液体又は気体に圧力を加える機械器具をいい、ポンプ、送風機、圧縮機などがこれに属する。

(二) 甲第一九号証、乙第三号証の一ないし一二、第四号証の一ないし一四、第五号証の一ないし一一、第六号証の一ないし七、第七号証の一ないし一二、第八号証の一ないし一二、第九号証の一、二及び五、第一〇号証の一ないし六、第一一号証の一及び二、第一二号証の一ないし八、第一三号証の一ないし八、第一四号証の一、二、五及び六、第一五号証の一の一ないし三、第一五号証の二の一及び二、第一六号証の一ないし四、第一七号証の一ないし五、第一八号証の一ないし三、第一九号証の一ないし三、第二〇号証の一ないし八、第二一号証、第二二号証、第二三号証の一、第二六号証、第二七号証並びに弁論の全趣旨によれば、被告商品は、遊戯者がメダルないしコインを投入し、スタートボタンを押して、絵柄や数字が三列にわたって描かれたドラムを回転させ、その後ストップボタンを押して、ドラムの回転を停止させることにより、ドラムが停止した際に現われた三列三段合計九つの絵柄等の組み合わせに応じて、予め定められた枚数のメダルないしコインが払い出される仕組みの娯楽用の機械器具であると認められる。これによれば、被告商品が旧第九類に区分された産業用機械器具又は風水力機械器具に属するものであるということはできない。

(三) 旧省令には、旧第九類に区分される品目のうち「その他の機械器具で他の類に属しないもの」の細目としては、「一 暖房装置および冷凍機械器具」「二 商業またはサービス業用機械器具」「三 保安用機械器具」及び「四 その他の機械器具」が掲げられ、このうち「四 その他の機械器具」に属する具体的商品として「遊園地用機械器具」が挙げられている。右の「遊園地用機械器具」は、遊園地に設置される動力を使用した娯楽用の機械器具を意味するものと解されるから、被告商品がこれに属するものということはできない。

(四) したがって、被告商品が本件商標の指定商品と同一であるということはできない。

2 なお、念のために付言するに、旧第二四類には、「おもちゃ、人形、娯楽、用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機(電機蓄音機を除く。)、レコード、これらの部品及び附属品」が区分されて、レクリエーションに使用する器具が分類されており、旧省令別表には、右の「娯楽用具」の細目として「遊戯用器具」が掲げられ、これに属する商品として「パチンコ器具、スマートボール器具、コリントゲーム器具」が挙げられている。現行の政令別表の商品区分第二八類(以下「新第二八類」という。)には、「玩具、遊戯用具及び運動用具」が区分されており、現行の省令別表には、右の「遊戯用具」の細目として「遊戯用器具」が掲げられ、これに属する商品として「コリントゲーム器具、スマートボール器具、スロットマシン、抽選器、ぱちんこ器具」が挙げられている。新第二八類の「遊戯用具」の細目としての「遊戯用器具」は、旧第二四類の「娯楽用具」の細目としての「遊戯用器具」を内容的に引き継いだものである。前記2において認定の被告商品の形状、機能、使用方法等に照らせば、被告商品は、スロットマシンの一種にほかならないというべきである。そして、前記のとおり、新第二八類の「遊戯用具」の細目としての「遊戯用器具」が旧第二四類の「娯楽用具」の細目としての「遊戯用器具」を内容的に引き継いだものであること、新第二八類の「遊戯用具」の細目である「遊戯用器具」に属する商品としてスロットマシンが挙げられていることに照らせば、被告商品を含むスロットマシンは、旧第二四類に区分された「娯楽用具」(そのうちの「遊戯用器具」)に属するものというべきである。したがって、この点からも、被告商品は旧第九類に属するものではないと認められる。

三1 問題とされる商品が登録商標の指定商品と類似するかどうかについては、商品自体が取引上誤認混同されるおそれがないものであっても、それらの商品が通常同一営業主によって製造又は販売されている等の事情により、登録商標と同一又は類似の商標をその商品に使用すると、取引者ないし需要者に同一営業主によって製造又は販売されている商品であると誤認され、混同されるおそれがある場合には、その商品は、登録商標の指定商品と類似するというべきである(最高裁昭和三三年(オ)第一一〇四号同三六年六月二七日第三小法廷判決・民集一五巻六号一七三〇頁参照)。

2  本件においては、産業用機械器具、風水力機械器具や遊園地用機械器具等の本件商標の指定商品を製造販売しているのと同一の営業主が通常パチスロ機をも製造販売しているという事実を認めるに足りる証拠はなく、本件商標と同一又は類似の商標を被告商品に使用した場合に、取引者・需要者に同一営業主によって製造販売されている商品と誤認混同されるおそれがあると認めることはできない。

3  原告は、長年にわたり原告が「コンチネンタル」という名称のスロットマシンを製造販売していることを挙げ、出所の誤認混同のおそれが高いとして、被告商品が本件商標の指定商品と類似する旨を主張する。

しかしながら、前判示のとおり、スロットマシンは、旧第二四類に区分された「娯楽用具」に属するものであって、そもそも本件商標の指定商品に属するものではないというべきである。そうすると、原告が自ら製造販売するスロットマシンに本件商標を付したことは、本件商標の指定商品の範囲を超えて本件商標を使用したものであるから、被告商品に被告標章を使用した場合に原告の製造販売している商品と誤認されるおそれがあるとしても、それによって不正競争防止法上の問題が生ずることは格別、本件商標権侵害の問題が生ずる余地はない。原告の主張は採用することができない。

4  したがって、被告商品が本件商標の指定商品と類似していると認めることもできない。

四  以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官三村量一 裁判官長谷川浩二 裁判官中吉徹郎)

別紙原告商標目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例